#2 のせなくてもいい仕事

お疲れ様です。イヌイです。

 

以前、こんな話を聞いた。

 

お弁当を作って出荷している工場。そこで働くある従業員の仕事は、幕の内弁当のご飯の上に梅干しをのせる作業だった。

 

ただひたすらに流れてくる幕の内弁当。その中でキラキラと光る真っ白なご飯に、その従業員は

 

ポッ ポッ ポッ

 

と、梅干しをのせいていく。ただただ、単純な作業。

 

 

ある時。

 

その従業員は流れてくる弁当を見ながら、あることに気が付いた。

 

どう考えても、梅干しが足りない・・・。

 

流れてくる弁当の数に対して、自分の手元にある梅干しが足りないのだ。どうすればいいんだ、と。梅干しが無ければ、その従業員の仕事は右から左、もしくは左から右へと梅干しの無い真っ白なご飯の幕の内弁当を眺めるだけになってしまう。

 

 

右手はおへそに添えて、右手の上に左手を重ね、右から左へ首を動かす。

右から左へ。右から左へ。ただひたすらに、弁当を見送る。

 

「いってらっしゃい」

 

近くで働いているパートのおばちゃんは叫ぶ。

 

「ちょっとあんた!検品作業はまだ先だよ、何やってるんだい!」

 

弁当を見送る視線を、パートのおばちゃんに向ける。

 

「いえ・・・梅干しが無いんで」

 

「はぁ?」

 

「梅干しが・・・無いんだなぁ」

 

 

梅干しが無いと仕事にならない。なぜなら、梅干しをのせるのが仕事だから。

 

その従業員は上司に掛け合った。

 

「すみません、ご飯にのせる梅干しが無くなったのですが・・・」

 

 

それを聞いた上司は、その従業員の持ち場ではなく、すでに完成して出荷待ちの幕の内弁当に向かった。そしてその上司は、弁当の裏に貼ってあるシールをじぃ・・・と眺め、その従業員にこう言った。

 

 

「梅干しと具材表記されてないから、入れなくてよし」

 

 

従業員は耳を疑った。

 

「え?」

 

「だから、梅干しって書いてないから、入れなくてよし」

 

 

 

おい。

 

 

おい!

 

お前、うめぼ・・・おい!!

 

 

具材表記されてないから入れなくていいとか、どうなんだ。え?どうなんだ言ってみろ。おへそでべそにするでおま!

 

今までその従業員がやっていた仕事は何だったのだろう。梅干しがないと始まらないのに、梅干しが無くなったら終わりなんて、自由業か。私がやってもいいですか。

 

 

もっと冷静に考えると、梅干し付き幕の内と梅干し無し幕の内がごっちゃになって納品されるってことではないか。

 

「お、ラッキー!今日梅干し付きじゃん」

 

「え、あたしのは梅干し無い・・・」

 

「あららぁ~、はん!お愛想!」

 

 

 

そこはご愁傷様だろ。

 

 

寿司屋かお前は。どうでもいいんだ、そんな話は。

 

 

私がこの話を聞いて強く思ったのは、梅干しの無い幕の内弁当なんか、幕の内弁当じゃないということ。

 

つゆの入っていない、すき屋の牛丼みたいなものですよ。いや、ちょっと違うなこれ。口がカッピカピに乾くじゃないか。

 

 

アルミホイルのない、チーズ入りハンバーグ。むしろそれただの鉄板焼き・・・。

 

 

もういいや。